ISO9000シリーズ認証取得の現状と企業経営に与える影響

 Copyright マネジメント開発室 シニアコンサルタント  山室隆彦

1.「ISO9000シリーズ」とは何か


ISOというのは「International Organization for Standardization」のことであり、日本では国際標準化機構と呼ばれている国際 機関である。 この機関は、ジュネーブに本部があり、日本など八十一カ国が加盟している。 ISO規格はここが定めた国際規格で、ねじや歯車など様々な工業製品の寸法や品質 、食品の組成などを決めている。日本工業規格(JIS)や日本農林規格(JAS) の国際版と考えていただければわかりやすい。 ISO規格の中でも、「ISO9000シリーズ」とよばれる規格は、製品自体の規 格ではなく、製品をつくる企業の品質保証体制について定めたものである点で特徴的 な規格である。「ISO9000シリーズ」はシリーズという呼称からわかるとおり 、複数の規格から成り立っている。それらの規格を表−1に示す。 そもそもISO9000シリーズがまとめられた背景というのは、商取引の国際化、 ボーダーレス化が加速する中で、国別にばらばらの品質保証体制を制度として決めて いたのでは、著しく取引きの公平さを欠き、手続きが煩雑になるというデメリットが 大きな問題となってきたことによる。 ISOでは、各国の学者や業界の専門家が参加、品目ごとに技術専門委員会や分科会 に分かれて議論を重ね、規格を練り上げている。この「ISO9000シリーズ」に 関してはTC176という委員会で1976年から検討が開始され、1987年に制 定された。 制定にあたっては英国規格BS5750と米国規格ANSI Z1−15がベースとなった。制定後も同じTC176委員会において、内容の検討 が続けられており、1994年にはその検討をもとに大きな改訂が行われた。次の改 訂は2000年に行われる予定である。、1995年3月現在で86カ国が「ISO 9000シリーズ」を国家標準として採用し、日本もJISに取り入れている。また 、1993年にはEC統合にさきがけて、欧州域内規格(EN)として採用された。 その内容は、顧客側が供給者側の提供する製品またはサービスを安心して使用するた めに供給者側は最低限これだけの管理は行って欲しいということを基準に整備したも のである。これまでの日本的な品質管理と大きく違う点は、経営者の責任と権限の明 確化、ルールや記録の徹底した文書化、独立的な内部監査制度の導入である。 ISO9000シリーズの審査登録制度というのは、運輸省と通産省の肝いりで発足 した日本品質システム審査登録認定協会(JAB)が元締めとなり、そこが認定した 民間の審査機関が企業を直接審査し、ISO9000シリーズの規格通りに品質管理 ができていれば登録して認定書を出す制度のことである。 この第三者である審査機関の審査を受けて、認定書を得ることが、ISO9000シ リーズの認証取得と呼ばれているものである。


2.ISO9000シリーズの認証取得の現状


ISO9000シリーズは、国内ではJISZ9900シリーズとして、1991年 10月に規格化されているが、それ自体に法律的な制約や制裁はない。採用するかど うかは、各企業の判断に任されている。ただしGATT(ガット:関税貿易一般協定 )の新スタンダードコード「貿易の技術的障害に関する協定」に、間接的な表現でI SO9000シリーズの導入が盛られた結果、日本の厚生省、米国FDA(食品医薬 品局)・DOD(国防総省)やEU(欧州連合)などの各国国家機関による標準とし ての採用がはじまっていて、世界的に商取引の基本として認識されている。 従って、製品を輸出する場合はもちろん、国内企業との商取引においても、取引先か らISO9000シリーズの認証取得を求められるケースが増えてきている。 そのため、この2〜3年はISO9000シリーズの認証を取得する企業が世界でも 、国内でも急増している。世界主要各国の認証取得件数の推移を表−2に、その中で 日本における認証取得件数の推移をグラフにしたものを図−2に示す。 これらの表や図から次のことが読み取れる。 ・世界の先進諸国のなかで日本はISO9000シリーズの認証取得において、スタ ート時に大きく出遅れていること。 ・日本は約2年間で認証取得件数を大きく伸ばし(1年で3倍以上のペース)、19 95年3月時点で南アフリカやカナダは追い抜いたが、他の先進諸国ではそれ以上に 認証取得件数が増加しており、かえって水をあけられていること。 これらのことから判断すれば、日本における認証取得件数はこれからも増え続けるこ とが予想される。ただし日本の場合、これまでに大手の電機メーカー、鉄鋼メーカー 、化学メーカーではほとんどの企業が認証取得を行っており、現在ではISO900 0シリーズ認証取得の傾向は、それら大手メーカーの下請け/協力会社への垂直展開 および中堅・中小企業への取り組みの拡大、そして非製造業(建設・ソフトウェア・運輸な ど)への水平展開、製造業の中でも自動車業界における取り組みの開始など多種多様 な広がりを見せている。 ここでは、それらの認証取得の現状を、いくつかの業界を取り上げてレビューして たい。


(1)建設業界


ゼネコン(総合建設会社)各社は1995年夏頃から一斉に、ISO9000シリー ズの国内での取得に動き始めた。建設省が2000年をメドに公共工事の入札参加条 件としてISO規格の取得を義務付ける方向で検討を始めたためで、各社は専門チー ムを設けるなどして社内の体制整備を進めている。民間建築工事でも品質管理に対す る要求が厳しくなっていることから、今後、建設業界では同規格の取得が加速するこ とは間違いない。 建設省は、1996年度には、関東地方建設局などから発注する工事のうち数件を対 象に、ISO9000シリーズのパイロット工事を実施する計画である。これは同シ リーズに沿った品質管理方法を実際の工事に適用し、具体的な手続き内容を把握する とともに、発注側の監督体制や建設会社側の管理体制に及ぼす影響を調べるのが狙い である。 建設省がこのようにISO9000シリーズの適用を目指すのは、世界貿易機関(W TO)の政府調達協定が1996年1月に発効されることを背景に、一般競争入札の 拡大に伴って第三者にも分かりやすい品質確保の方法や、責任と権限の明確化が求め られているからである。 建設業界では、海外事業所においてISO9000シリーズの認証取得が進んでいた。 これは東南アジアを中心に、公共工事の入札参加にあたって、認証取得を義務づける 国や地域が相次いでいるからである。香港では1996年10月以降、シンガポール では1999年7月以降、ISO9000シリーズの認証取得企業でなければ入札に は参加できないことになった。国内においてはエンジニアリング系の建設会社である 日揮、東洋エンジニアリングが先行して認証を取得している。これは顧客である大手 メーカーからの要求が強く、他社との競合上、認証取得が不可欠という判断によるも のである。 国内のゼネコン第一号としては戸田建設が審査登録機関の建材試験センターから19 95年12月に認証を取得した。他の大手ゼネコンも準備を急いでおり、1996年 中にはそのほとんどで認証取得が行われるであろう。 大手ゼネコンが一斉にISO9000シリーズの認証を取得すれば、次にはその協力 会社である専門工事業者や建材メーカーに対しても認証取得を要求していく動きが活 発化することは確実である。


(2)ソフトウェア業界


ISO9000シリーズは主に大量生産の工場を想定して作られている規格であり、 ソフトウエア産業にそのまま適用することは難しい。このためソフトウエア産業に適 用するための指針がISO9000シリーズの中で定められており、それはISO9 000−3という名称で知られている。英国ではイギリスコンピュータ学会(BCS )が中心となって1990年からこのISO9000−3指針をベースにしたソフト ウェア品質の審査登録制度「TickIT」を開始している。日本においても通産省 の外郭団体である情報処理振興事業協会(IPA)において1993年12月からソ フトウェアの審査登録の必要性について検討を重ね、1995年3月にまとめた報告 書のなかで、日本においても独自の指針による審査登録制度が必要であるとの結論を 出した。これを受けて日本品質システム審査登録認定協会(以下JABと記す)では その制度化に向けて準備を進めてきた。 日本において用意された指針(JAB案)が上記のISO9000−3と異なってい る点を表−3に示す。 しかし、JABが1995年の4月に米国のソフトウェア業界担当者に対して事前説 明を行ったところ、米国側が「新たな規格であり、非関税障壁だ」と反発し、規格化 の中止を申し入れた。結局米国側の主張に日本側が押し切られる形で交渉は決着し、 @要求規格はISO9000シリーズだけを用いる。A指針としてJAB案は使用し ない。B審査員資格基準としてソフト開発4年以上の実務経験を必要とする案も取り 下げる。 の3点につき合意され、以上の前提でJABは1995年10月からソフトウェア業 の審査登録を開始した。 このようにISO9000シリーズの適用指針の制定に関して紆余曲折はあったが、 日本において、ソフトウエアの品質保証制度が正式に発足した意義は大きい。 日本のソフトウェア業では従来、主に国内マーケットを対象にしており、ISO90 00シリーズへの認識は薄かった。そのため現段階においては、ISO9000シリ ーズの認証を取得しているソフトウェアベンダーは大手メーカー系のIBM、NEC 、富士通FIPなどか、独立系大手の東洋情報システム、富士ソフトなどの一部に限 定されている。 しかし、今後はソフトウェアの品質という概念がユーザー側に定着してくるであろう し、その尺度としてISO9000シリーズが利用されるのは間違いない。そのため 他社との競合に勝ち残るうえでISO9000シリーズの認証が要求されるだろう。 また、上記のような認証取得済みの大手ソフトウェアベンダーは、下請けに使う中小 ソフト会社に対してISO9000シリーズ認証取得の要求を行うか、あるいは取引 先選別の基準としてそれを利用するであろう。 いずれにせよこれからはソフトウェア業界における認証取得は増えていくものと思わ れる。


(3)自動車部品業界


自動車部品の分野では、ビッグスリーと呼ばれる、米国の自動車メーカー三社(フォ ード、GM、クライスラー)が、自社の買う部品について、ISO9000シリーズ に要求事項を上積みした独自の品質システム規格QS−9000を公表し、部品会社 には第3者機関による審査登録を受けるように要求している。審査登録されたメーカ ーはMISGという自動車部品の供給業者を登録しているデータベースにそれが明記 される。 QS−9000は本来、ISO9000シリーズとは全く別の規格として制定される 予定であったが、ISO9000シリーズが先に制定されたため、それに整合させた 経緯がある。QS−9000にもISO9000シリーズと同様に設計業務の認証を 含むものと、含まないものがある。ただしISO9000シリーズと異なる点は、設 計業務を行っている供給業者は設計業務付きのQS−9000を必ず取得しなければ ならず、選択の余地はないということである。 QS−9000が参照を要求するリファレンスマニュアル類は品質システム要求事項 (Quality System Requirements)をはじめ、品質システム監査(QSA)、製造部品承認プロセス(PPAP )など8種類もある。QS−9000の認証を取得するためには、これらの文書の内 容をすべてつかむ必要がある。 オーストラリアでは日本の自動車メーカーとビッグスリーの合弁会社がQS−900 0を使い始めたという情報があるし、米国でも日本メーカーとビッグスリーの合弁会 社がQS−9000を使い始め、それが日本にも波及する可能性はある。 また欧州ではGEグループのドイツOPEL社や英国Vauxhall社ではQS−9000 を既に導入しているが、他の欧州自動車メーカーも品質管理システムとして採用する 動きもある。これまでにQS−9000の認証を取得した供給業者の数は米国審査登 録機関によれば20から30社と見られている。日本では、アルミ電解コンデンサー メーカーのニチコン長野工場で95年11月に認証を取得した。 日本の自動車部品業界では、これまで、自社製品の品質管理レベルに対する自信と確 固とした系列取引への依存により、このような第三者による品質システムの審査は必 要ないと考え、個々に対応することでよしとしてきた。しかし最近は、自動車業界の 構造的な変革のなかで、部品メーカーの選別や系列関係を超えた取引のケースが増え ている。 今後、部品メーカーは自らの生き残りのために、既存取引先との信頼関係強化や独自 の取引先開拓を行っていかざるを得ないだろう。 そのために、QS9000やISO9000の認証取得によって、自社の品質システ ムの優位性を対外的にアピールしていくことが企業戦略として重視されるべきであろ う。


(4)物流業界


物流業界でISO9000シリーズの認証を取得する動きが広がっている。 欧米ではISO9000シリーズの認証取得を物流業者選定の基準とするところが多 く、また国内でも、ISO9000シリーズの認証を既に取得している企業からの要 求が厳しくなっているため、ISO9000シリーズによる品質保証を武器に顧客開 拓を促進していこうとする物流業者が増えてきているためである。 また物流業者にとっては、ISO9000シリーズの認証取得で業務マニュアルの整 備や、作業レベルの向上につながるという利点もある。 現段階で先行しているのは、航空貨物取り扱いの大手業者である。 日本通運は93年4月にスタートした中期経営計画の重点施策として「高品質の実現 」を掲げ、ISO9000シリーズの認証取得をその一環と位置づけており、国内の 航空貨物取り扱い拠点や海外拠点で認証取得を進めている。近鉄エクスプレスも同様 に国内本社のほか国内の各拠点や、海外現法での認証取得を精力的に進めている。そ の他にも丸全エアエクスプレスでは95年6月に全事業所において認証を取得したし 、物流業大手の山九では航空貨物輸送の分野で認証を取得した。 また、メーカーの物流子会社での認証取得も進んでいる。95年2月には半導体メー カーであるロームの物流子会社ローム・ロジステックがISO9002の認証を取得 し、95年3月には富士通ゼネラルのマルチサイト認証の一環として、物流を担当し ているエフエルシーがISO9002を、95年5月には新電元工業の物流子会社で ある新電元ロジステックがISO9002を取得している。 これら以外にも物流関係では、海運会社や港湾物流業者でも同様の動きが出ている。 商船三井では94年末に安全運行体制を確立するため、安全運行の部分でISO90 02の認証を取得した。また港湾物流業で店頭企業のタカセでは、海外荷主獲得のた め、97年春のISO9002認証取得に向けて準備を進めている。


(5)医療機器業界


医療機器の世界市場は、主にアメリカ、ヨーロッパ、日本の3極で構成されている。 近年これらの3大市場間における輸出入量が増加するにつれて、各国間でばらばらな 医療機器規制を一本化しようという動きが主流になっている。そこで現在主導権を握 っているのがヨーロッパである。ヨーロッパでは、EUによる市場統合に向けて、各 国の規制や規格の統合が進められているが、そのひとつとして医療機器の「試験およ び認証へのグローバルアプローチ」が1989年12月に採用され、これを達成する ためにヨーロッパ域内規格EN46000シリーズが採択された。このEN4600 0シリーズはISO9000シリーズの要求事項に医療機器固有の要求事項を付加し たものである。 日本においても、医療機器規制はISO9000シリーズに合わせた変更が行われて いる。厚生省が従来より、医療機器メーカーの適合性判断の基準として使用してきた GMP(Good Manufacturing Practice:医療用具の製造所における品質保証に関する基準)が1994年にISO 9000シリーズを全面的に取り入れる形で改正された。 そのため、医療機器メーカーの適合性判断は実質的にISO9000シリーズを基準 として行われることになる。 そして、これらの医療機器規制の世界的な統一化の動きに合わせて、新たな医療機器 規格がヨーロッパで採用されている。それがCEマーキングのMDD(Medical Device Directive:医療機器指令)と呼ばれるものであり、この規格に適合しない医療機器 は、1998年6月14日からEU域内における製品販売ができなくなる。 このCEマーキング取得のために、医療機器メーカーは高レベルの品質システムを持 たなければならないが、それを証明するために最適と見なされているのが、先ほど述 べたEN46000シリーズまたはISO9000シリーズの認証取得である。 そのため、現在ヨーロッパとの取引きがある医療機器メーカーにとってはEN460 00/ISO9000シリーズの認証取得が商売を続けるうえでの必要条件になって いるといってよいだろう。                   以上