建設業での品質システム・lSO9000s規格をどう理解するか

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SCOPE−MS 審査室長 桑水流 義雄


 最近、ISO9000sによる品質システムを適用することに、建設関連業界で大きな関
心を持たれている。

 しかし、その関心の持ち方は様々であるが、特に「建設業に、何故ISO9000sが必
要なのか?」と疑念をお持ちの方も多い。このような疑念の根本には、
・今までの経営形態や業務運用で何の問題もないのに!
・ISO9000s規格は、建設業の業態に相応しくない!
といった観点があろう。

 前者については、一言で言えば、「グローバルな国際化の時代の種々な社会的環境
が要求している」ということであり、また、それが企業利益にも繋がる可能性もあると
いうことで、“BAY SCOPE”本号の他の頁に詳しく述べられている。

 後者については、その多くの論点がISO9000s規格に対する誤解から生じているの
ではと思われる。この点について、以下に若干述べさせて戴き、ISO9000s規格につ
いて大方の御理解を得たいと思う。

特別な新しい業務運営を求めるものではない

 「品質に関しては世界に冠たる技術国家である日本が、わざわざ外国の品質管理シ
ステムを導入することはないではないか!」という議論は、ISO9000s規格の導入時に
は、TQC、TQMを実賎している製造業等の産業界でも多かった。

 確かに、日本の品質管理体制は立派なものであり、品質や生産性の「改善」の手法
がISO9000ファミリー風格に採用されるほどのものである。

 しかし、ISO9000sが求めている品質システムは、「顧客の要求どおりの品質を企業
が造り込むという、顧客が信頼し得る生産管理体制」ということであり、常に信頼し
得ることを立証するには、単に生産結果の品質だけでなく、そのような生産管理体制、
すなわち品質に係わる業務の管理体制を明確にして顧客に説明し得ることが必要であ
る。ISO9000s規格は、その顧客の観点から、「何を明確にしたらよいか」の基準で
ある。
 ここで、「明確にする」とは、適宜の文書で記述してあるということで、いわゆる
「文書化」が必要になる。

 大方の日本の企業は、それぞれの業種に応じて、それなりの品質管理体制を確立し
て実行している。ただ欠けている点があるとすれば、その管理体制を楓定する系統的
な文書化であろう。その点を除けば、ISO9000s規格が要求する「明確にすべき事項」
は、実際には行っていることが多いであろう。

 従って、ISO9000sを適用して品質システムを構築するといっても、従来から実行
していることを、そのままに明確にすればよいことになる。また、従来から使用して
きた文書もそのまま使えるものも多いであろう。

 とは言っても、明確にする過程で、管理体制を改善を志す場合もあるであろうし、
ISO9000s規格の要求事項に適合しない点があれば、管理体制を若干手直しすること
が必要にもなろう。しかし、風格要求事項に適合しない点の手直しを除けば、その他
の改善は順次に時を追って行えばよいことである。一遍に百点満点の品質システムを
求める必要はない。ISO9000s風格は、連続的な有効な品質システムの改義を求めて
いる。今日本では、ISO9000sと従来のTQMとの融合による新しい品質システム
も模索されている。

 建設業でも、それぞれの企業は、創業以来の精神と伝統に基づき、各社各様の理念
に従って、高品質の建設事業を維持するための業務管理を行ってきたはずである。そ
の業務管理体制をそのまま明確にすればよいので、他の産業の場合と同じく、何も全
く新しい特別な業務運営が求められる訳ではない。

 ただ、建設業の場合、あまり馴染みのない品管の用語や槻念に惑わされているので
はないであろうか。むしろ、それらに馴染みのない建設業では、適切な理解さえあれ
ば、ISO9000s規格は品管・品証体制構築の出発点として適していよう。


ISO9000sの品質システムの特徴


 品質に係わる渠務の管理体制に対するISO9000sの要求事項で特徴的なのは、次の点
であろう。

・組織の責任体制を明確にして文書化する。
 すなわち、
 管理者の責任と権限を明確にする、業務の実行者の担当職務を明確にする、
 業務の実行における組線的な相互関係を明確にする。
・業務の手順、指示、要領、基準を明確にして文書化する。
・業務の実施と管理における検証活動を重視する。
・業務の確実な実行の証拠として、必要な記録を残す。
・経営トップが示す品質方針、品質目標の達成を定期的に評価し、その結果に基
 づく品質システムの見直しを行う。

前述のように、日本では技術の標準文書化は進んでいるが、このような業務管
理の面では明確化・文書化に欠けているところがあった。

 従来から行ってきていることを文書化するとはいえ、それには多大な労力・時間・経
費がかかるし、組織の責任体制を明確にするには、社内で摩擦が生じることもあろう。

 業務管理面での曖昧さは、ある意味では融通性に富み、効率のよい業務の執行が出
来るかも知れない。しかし、それは仕事が旨くいっている場合であって、何かトラブ
ルでも生じたときには、問題の解決を困難にし、再発の防止にも繋がらない。ISO9000s
の品質システムは、リスク管理やリエンジニアリングなど企業経営の道具として有効
な手段とも言える。その意味で、業務管理の明確化・文書化に取組んで欲しいと願う
ものである。


ISO9000sの要求事項は、建設業にも当てはまる!

ISO9000s規格が建設業に相応しくないという論拠の最も大きなーつは、規格の記述
が製造業を対象にしたものであり、建設業の業態とは掛け離れたものということであ
ろう。
 しかし、この規格は、サービス業を含めてすべての産業に適用できることを前提に
制定されたもので、たとえその記述表現が製造業寄りであろうと、そこに規定された
要求事項は、どの産業でも多かれ少なかれ共通するものである。

 規格の規定の字句に囚われることなく、その要求事項の意図する所をそれぞれの業
態に合わせて解釈し、適用を考えることが肝要である。

 まず、この租格要求事項がどのように構成されているかを、ISO9000s規格のうち、
最も適用範囲が広いISO9001規格について考えてみよう。
ISO9001の表題は、「設計・開発、製造、据付け及び付帯サービス」となっているが、
建設業で言えば「設計、施工、及び付帯サービス」といったことになる。この規格に
は、大きく分けて20項目の要求事項(これを品質要素という)がある。それらは、下
図のようにブロック化することができよう。(A)と(B)のブロックにある業務管理は、
どんな業種でも一般に行われるものであり、建設行でも例外ではないであろう。


(C)のブロックは、製造業で言えば引合・受注から製造・出荷或いは据付け・引渡し
に至る一連の業務プロセスの業務管理項目についての要求事項で、建設業で言えば、
入札・契約から工事目的物の竣工・引渡しに至る一連のプロジェクト・プロセスの業
務管理に相当するものである。(D)の項目ロックの中の要求事項、特に(C)のそれぞれ
が、建設業における諸業務とどのように関連するかを理解することであろう。要求事
項のそれぞれについて詳しく述べる紙面の余裕はないが、(C)の要求事項の各項目の意
図するところを、建設業にも通用する表現で、次に簡略に示す。
契約内容の確認:引合・見積・入札・契約・契約変更等の一連の受注業務の中で、

・契約内容を明確に把握する。
・自社の能力で施工し得る内容であることを確認する。

設計管理:顧客の要求、法規制等の要件を完全に満たす設計を行うため、次の事項に
     ついて計画的な管理を確実にする。

・設計要員の割当て・設計条件の設定
・設計業務の実施
・設計結果の確認(検証・審査・妥当性)
・設計変更

購 買:工事目的物の品質を確保するため、工事資機材の購入、工事下請業者との契約
    において、

・適正な資機材を納入する能力、或いは適正な工事作業ができる能力を明確な基準の
 下に評価し、能力に見合った検査、監督などの管理を行うことを条件とする。

・明確な購買品仕様、工事仕様での発注を行う。

顧客支給品の管理:適正な支給品の受入及び支給品の適切な保管・使用の管理を確実
に行う。


識別及びトレーサビリティ

識 別:資機材の誤用、施工工程の混乱の防止など、その目的に応じて、資機材、工
    事パッケージなどを、資機材の特性、施工図面、作業指示書等と対応て、必
    要な区分・表示などを行う。

トレーサビリテイ:施工中、或いは施工後に問題が生じたとき、必要であれば、その
         根源を追求できるように、資機材履歴、作業履歴、検査履歴など
         を遡及可能なようににする織別の手段をとる。

工程管理(施工管理):品質計画書或いは施工計画書に基づいた施工プロセスの各段
           階での手順を確実に実施するための作業管理の手法(例えば、
           作業指示書による指示・確認)を明確にし、その実行を管理する。

検査・試験:要求品質を満たしていることの確認のため、資機材の納入、施工プロセ
      スの各段階で行う検査・試験の計画的な実施とその確実な実行の検証を
      管理する。

取扱い、保管、包装、保存及び引渡し:工事目的物を引き渡すまで、施工中、施工後
                  に生じ得る資機材・工事目的物の揖傷、劣
                  化を防止する保護対策を、計画的に実施する。

付帯サービス:建設工事以外に、それに関連して自社が顧客に提供し得る物件やサー
       ビスの提供業務の適切な管理を行う。

 以上に、(C)ブロックの規格要求事項の意図するところを平易な表現で簡略に述べ
たが、これらは、建設業が常日頃の業務の中で行っていることであり、別に違和感の
あるものではないと思う。風格の要求する品質マニュアル、手順書等の中で、規格の
記述の字句に囚われずに、自社で日常に使用している言語で、自社の品質に係わる業
務の管理の手順をそのままに記述すればよい。それらは、自社の職員が理解できるよ
うに記述されなければならない。

 さらに品質マニュアル、手順書について、一言述べておきたい。規格要求事項は、業
務管理の手順の中で守られるべき最小限の要件を規定しているに過ぎない。それぞれ
の企業の管理手順には、これが含まれていなければならないが、その要件だけでは実
際の業務は執行できない。手順書は、実際の業務の流れが完全に含まれているべきで
ある。それに基づいて職員が職務を行うのであるから。品質マニュアルは、それらを
集約した要約版として作成されるものである。

 最後に、ISO9000s規格の条項について疑問があれば、SCOPE−MSは、建設分野の
専門的な審査登録機関として、御質問に応じます。ISO9000sについて十分な御理解を
戴き、建設業の発展にご利用下さることを望んでいます。