SCOPE−MS 登録管理室長 堺 和彦
初めてISO 9000sの規格を手にしたとき、多くの人々が「果たして建設業に馴染む規 格だろうか?」と瞬間に思ったのではないだろうか。ISO 9000sの規格は全ての産業 に適用出来る幅広い記述となっているため、このままでは建設業に適用しづらいとの意 見は我が国だけでなく、ISO先進国であるヨーロッパでも話題になっている。 ISO本部発行の「ISO 9000 NEWS」最新号(Vol.5.No.4.july/August’96)に、ブ リュッセルに本部を置く欧州建設産業連合会(FIEC)の報告として、ドイツの150社を筆 頭として、ヨーロッパでは700社を超える建設業者が95年までにISO9000の認証を 取得したこと。しかし、まだ数多くの建設業者がISO9000が製造業向きの風格である と考えている現状を伝えている。建設業界の認証取得推進対策として、品質管理実施 のための教育訓練、システムモデル、システム確立方法等に関する指導援助の実施、 品質システム整備に向けて、設計コンサルタント、下請負若者、資材供給者及び、発 注者を交えたアプローチの必要性,長期的展望として品質システムの促進だけでなく、 公共機関の調達手順を通じて真の品質達成を目指すなどが提案されている。国内では ISO 9000sの建設業への導入はその端緒にあり、建設業界への導入促進に関する具体 的な方法は示されていない。しかし、公共事業におけるパイロット事業の実施、建設分 野を対象とした審査登録機関の設立など、座視していられる状況でないことの理解は 進んでいると考えられる。 検討を進めている、またはこれから検討するという場合まず第一にISO 9000sが何 を要求しているか理解することから始められるべきと考える。ISO9000−1(適用の手引 き)では、「利害関係者型」と「経営者型」のこ通りがあるとしている。前者は品質シ ステム審査登録制度における認証取得が目的化する傾向があり、その結果として、現 実に行われている業務形態とかけ離れた理想型を追求するか、規格用語通りの文言を 多用した難解型の品質マニュアルが作成され、運用が非常に困難になる恐れがある。 後者は、顧客ニーズを先取りし、広寵、総合的かつ現実的なシステムを構築すること により、品質達成度を向上させることにも通じ、効果的である。建設分野では前者の 傾向が強いと感じられるが、内部監査、フォローアップ審査を重ねていくことで、修 正を加え「品質向上型」のシステムに近づけて行くことが望ましいと考える。 品質システム構築の手順として、段階的に構築していく方法が容易であり、かつ時 間的には最短となるのではないだろうか。身近な作業の分析から始め、徐々に積み上 げていく。業務を見直し、「無理、無駄、むら」を省く。ISO導入の動機として、オ ーストラリアでは生産性向上、社会体制の見直し、そして経営方法改善を挙げており、 ISOをそのためのツールと位置づけていた。後者の「経営者型」を採用している.この 方法であれば、経営トップの了解が容易に得られるのではなかろうか。 品質システムを構築する上で重要なことは、文書化である。現在の業務のやり方を そのまま文書化していく。高度なシステムにすべきとは、ISOでは要求していない。 文書化するには、業務分析を行い、「誰が」「何を」「どのように」やっているかを文 書化する。仕事の流れは他部署とどういう関係か、次工程へはどのような情報として 伝えられるか。これらを把握するため、フローチャートで表現し、無馳、むりなどの 修正個所の発見に役立てる。これらは、現状の仕事のレビューであり、手順書、マニ ュアルを作成する上で重要な情報となる。併せ既存の規定、作業標準、手順を見直し、 現実にそぐわない。使いにくいなどの理由で休眠状態にある文書は改訂、廃棄など整 理してしまう。手順書、マニュアルで引用できる「社内標準管理規定」の制定もこの 段階で取りかかれる。分析が終了した段階で、現実に即した手順書に基づき「仮の品 質マニュアル」を作成する。 内部品質監査員を養成する。「仮の品質マニュアル」をもとに内部品質監査員が実 施状況を掘り下げるとともに、内部品質監査員のレベルアップを図る。内部品質監査 によって発見されたシステムの不整合点、欠陥、欠落点は品質システム構築に重要な 情報である。品質システム維持の最重要なプログラムである。指摘された事項をもと に、欠落している手順書を作成したり、既存の手順書の改廃を行う。数ヶ月毎、内部 品質監査を数回行い、それらで得られた情報と、「仮の品質マニュアル」をもとに「品 質マニュアル」を作成する。 システム運用を定着させるため、内部品質監査を数回実施し、指摘点の発見に始ま るシステムの維持処置を行い、業務形態にそぐわない手順書、場合によってはマニュ アルの改訂を行う。運用実績を積み重ねた後、審査登録機関に受審申し込みを行い文 書審査、および場合によっては予備審査を受け、指摘点の処置又は是正を実施し、本 審査を受審する。 以上のように、日常業務に基づいた品質システムを構築し、内部品質監査による躯 続的な改善を続けることで、段階的に品質向上体制を確立し、建設品質達成を目指す ことが重要ではないだろうか。 ISO9004_1:1994「品質管理及び品質システムの要素」に基づいて作成された品質マ ニュアルの例を次頁に示す。 全社業務共通の項目は、次ページに示すように通則、管理、手順一般として定めて おり、個々に異なるプロジェクトであっても、プロジェクトの流れに沿って、手順に 従った管理が可能な構成となっている。ただし、この構成は第一次改訂のマニュアル であって、文書審査を受けて改訂する可能性がある。しかし、読み手としては,仕事 の流れがよく見え、理解しやすい構成といえる。 マニュアル、手順書の使用者は従業員であり、彼らに理解できない文書ではシステ ムが円滑に運用できるとは思えない。この例の様に日常の業務の流れが項目だけでも 理解できるような品質システム文書が望ましいと考える。 通則 品質方針 組織責任及び権限 品質システム 略語及び定義 管理 文書管理 教育・訓練 不適合処理 是正処置及び予防処置 品質システム監査 手順 一般 情報連絡及び下請負契約 文書管理手順 プラント及び資機材管理 プロジェクト管理手順 1.市場調査 1.1プロジェクトの港待と選択 2.入札 2.1工事の入札 2.2リスク分析/契約内容の確認 2.3入札/見積協議 2.4プラント仕様の修正 2.5プラント新規見積 3.計画 3.1契約業務 3.2要員の割り当て 3.3プラント操業条件規定 3.4補助プラント規定 3.5調査・検査機器規定 3.6プラント海上輸送楓定 3.7物品の発注/支給 3.8保険 3.9プラント/機器の準備 3.10プロジェクト計画 (品質、環境、安全) 4.施工 4.1専門家の支援 4.2保険金請求の処理 4.3プロジェクト経費の配分 4.4現場職員の氏名及び解任 4.5資機材及び労務契約 4.6プラント借り上げ 4.7資機材及び予備品の供給 4.8建設チームの撤退 4.9施工管理及び施工完了 4.10機器の品質管理 5.完工 5.1主プラント及び補助引渡 5.2プロジェクト評価/最終報告